私たちは初めて訪れる国の飛行場では「サイン」を手がかりとして、荷物を受け取ったり、入国審査を受けたり、市内への交通手段を探します。
そこでどのようにサインを探しますか?
普通は自分の目線よりも上にサインがあるので、たいていは視線を上にするとサインを見つけることができます。きっと世界共通ですね。羽田空港では上にバスや駐車場を示すサインが掲出されています。
シドニーのキングスフォードスミス空港も同じですね。
そこで、次の写真をご覧ください。
「京急線」の案内が頭上の<釣り下げ式掲示>と柱にべたっと貼り付ける<柱貼り付け掲示>の2通りになっています。これって、人がこの柱の前に立っていたらどうでしょう?サインとしての機能を失ってしまいますね。さらに、奥の壁を見てもわかるように同じサインが<壁貼り付け掲示>として掲出されています。このように同一の情報を複数掲示するのが羽田空港ではよく見られました。
もう少し例を見ていきましょう。
突然、通路の真ん中にサインが置かれております。シドニー空港も同じようにサインが置かれているのですが、用途が全く異なっています。
シドニーの場合は「これ以上カートでは進めない」という警告ですので、カートを押している人に対する注意喚起をしています。いわゆる道路上に障害物を置き、車では進めないというような役割をしています。
一方、羽田空港の場合は注意喚起ではなく、「エレベーターが便利です」とエレベーターを使うことを婉曲的に表現しています。これはポライトネスとして分析することができる表現ですが、これはまた機会を改めて表現の項目を立てて説明します。
今回はサインの掲示場所に焦点を当てていますので、そちらの観点からですが、日本では「警告」のサイン以外にも突然通路の真ん中にこうした<立て看板式掲示>がよく見られます。さらに、次の写真。
エレベータの位置を表すサインですが、<釣り下げ式>に加え<立て看板式>、さらに床にまで掲示されています。同一の情報が3カ所にも掲出されています。
日本語は<ハイコンテクスト文化>に分類される言語ですが、その特徴として、あまり多くのことを言語で伝えず、状況(コンテクスト)から聞き手に理解を求めるようなコミュニケーションが行われるとされています。しかしながら、このサインの掲出状況を見る限りでは、それが当てはまりません。ひょっとすると<ハイコンテクスト文化>だからこそ他者への配慮として様々な場所に重複する内容の掲示を行っていると考えてもよいのかもしれません。
(倉林秀男)