http://www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2013/08/20n8j200.htm
に具体的な資料が掲載されています。
おそらく、当時のニュースでも大々的に取り上げられていたので記憶にある方もいるでしょう。これまで [国会前] という案内標識の下には [Kokkai]というローマ字が併記されていたのを、「観光立国の実現に向け、道路案内標識を外国人にも分かりやすくするため」(東京都資料)に [The National Diet]としました。
私たちは「ダイエット」と聞くと、「あ〜、先月は食べ過ぎてちょっと体重が増えてきたから、今日からダイエットしなきゃ」と体重計に乗りながら心の中で発する時に使ったり、「リンゴでダイエット」のようなことを思い起こすでしょう。英語のdietには2つの系統の語源があって、たまたま今日1つのdietという語に収斂してしまったのです。古代ギリシア語にdiatia( δίαιτα)という生活様式を表す語がありました。これが食生活を表す語になり、ラテン語→フランス語と経由して英語に入ってきました。これがちょうど1066年のノルマンコンケストの頃でした。
一方、古代ギリシア語のdiatiaにルーツを持つ古代ラテン語のdietaは日程、日々の行いという意味があり、英語のルネサンス期にラテン語を直接取り入れdietという語になり、会議を行う日のことを指すようになったと言われています。
ということで、英語のdietには流入過程が異なる語が、結果としてたまたま1つの語になってしまったことで、2つの全く異なった意味を持つことになったわけです。
そして、日本はプロイセン憲法の影響もあり、帝国議会をthe Imperial Dietと称し、戦後になって国会となった際に、つまり憲法が英語で書かれた時にもthe Dietと名称が引き継がれました。ただ、他の多くの国では日本の国会に相当する議会のことをcongressやparliament と呼んでいます。むしろDietと自ら称している国はほとんどありません。かつてはデンマークなどプロイセン憲法の国々ではDietだったらしいのですが、今日ではparliamentと称しています。リヒテンシュタインの憲法にはthe Dietと明記されていますので、国会や議会をDietと呼ぶのはおそらく日本とリヒテンシュタインぐらいかもしれません。
では、海外では日本の国会をどのように称しているか、海外の新聞をざっと眺めてみると、たいていはparliamentと称されています。つまり自分たちにとって理解しやすい単語に置き換えられており、日本で呼んでもらいたいdietという言葉は何処にも出てこないのです。
このように考えると、「観光立国の実現に向け、道路案内標識を外国人にも分かりやすくするため」(東京都資料)とするならば、the Parliamentとしたほうがよいのではないでしょうか?
(倉林秀男)